すっとぼけた声で答えると先生は空を見上げた。


 私は身体を起こす。

「…私に構わないで」

「……」

「…もう…誰も」


 隣に居てくれて内心は胸が温かいのに、出てくるのは酷い言葉ばかりで。
 本当は「さっきはありがとう」とか「ポロシャツ汚しちゃってごめんなさい」とか、次逢ったら言おうと思ってたことがいろいろあったはずなのに。

 そして、そんな酷い言葉ばかりを投げつけるのに先生は穏やかで。
 その穏やかさに救われながらも、苦しめられる。


「……」


 風に乗って遠くのパトカーのサイレンと大通りを走る車の音が聞こえてくる。暮れなずむ街の気配が、まるで空高くから見下ろしているように遠く、心地好い。


 でももう…
 先生はきっといなくなってしまう。
 当然だ。私がそう言ったんだから。


「青海」

「……!」


 先生が私を呼んだ。もう行ってしまうんだ…

 先生の『じゃあな』って言葉が怖くて下を向いた。


「……」

「なぁ、青海」

「……」

「無視するなって」

 先生が困ったように笑う。
 そして怒るでも哀しむでもなくいつもの軽い調子で訊く。


「なぁ、俺ってそんなに信用ない?」


(信用…)


 先生のこと、信用してないんだろうか?─



『青海のこと、守るから』