蜂蜜色の夕陽がフェンスの長い長い影を作る。
 ブラッドオレンジの果汁みたいだった空は次第に東から藍色に侵食されていく。
 屋上の床に大の字に寝転がる私も、足首に巻かれた包帯も、蜂蜜色と藍に染まっているだろう。

 夕暮れの涼やかな風。そろそろ帰らなきゃいけないかな、と思わせるそんな空気の匂い。

 ずっとこの夕べが続けばいいのに。


(そしたら帰らなくていいのにな…)


 幽かにキィ、という音がして、私は身を硬めた。

 何でこんな時間に…?


 足音が近付いてくる。そして…


「下校時刻過ぎてるぞ」

 グラデーションの空を背景に、先生が仁王立ちで私を見下ろす。


「……」


 黙り込む私の傍らに先生が座る。


「教室にまだ鞄があったから、もしかしてと思って来てみたらやっぱりいた」

「……」

「足、痛むか?」

 私はゆっくりと首を振る。


「そうか」

「……」

「体育祭終わった時、救護テントにいなかったからどうだったかなと思ってた。具合良いなら良かった」

 先生は柔らかな微笑みを浮かべて私を見ている。


「……

 ねぇ…」

「ん?」

「もう来ないんじゃなかったの?ここに」

「あ、ぁー…そんなこと言ったっけかな~?」