あり得ないほど鼓動が速い。思わず身体が硬く縮こまる。
 先生の胸にぴったり寄り添っているのが落ち着かなくて、身動ぎする。


「動くなって」

 先生は更にぎゅっと私を抱え込む。


(うゎぁ…!)


 先生は私を軽々と運び、救護テントまで行くと椅子に座らせた。養護の先生が直ぐに肘にガーゼを当ててくれたけれど、もう仁科先生のシャツの鳩尾あたりには赤黒い染みが出来てしまっていた。

「まず足の方、湿布して固定するわね。それから傷を洗いましょう。砂入ってるから」


 養護の先生が湿布の用意をしだすと、仁科先生は私の前に屈んで顔を覗き込んだ。


「また後で様子見に来るから」

 そう言って大きな掌で私の頭をわしゃわしゃ撫でて笑う。白い歯を覗かせる少年のような清涼な微笑みに、私は泣きそうな気持ちになった。


「…来なくていいよ」


 声にならない呟きは届かなかったろう。先生は走ってグラウンドに戻って行った。


「青海さん、痛いのこの辺り?」

「あ、はい…」


 足を手当てしてもらっている間、ぼんやりと考える。


『…来なくていいよ』

 本当に来なかったら、どうしよう…