平均台の前まで来ると、その高さが意外と高いことに気付いた。体操部が使っているおそらく競技用の平均台。低めに見積もっても高さ1m以上はありそうだ。

 2台あるうちの一つに手を掛け跳び上がる。

(あっ…ホント高い!)

 上がり切れなくてもう一度跳び上がる。
 隣の平均台では上手く上がれない子が仁科先生に手を貸してもらっていた。


(絶対借りないし!)

 腕力で無理無理よじ登る。

 客席を広く見下ろす高さで慎重に慎重に進む。が、だんだんと背後に後続が迫る気配を感じる。

(大丈夫。ここでは抜かれないし…)


 その時、

「あっ!」

という叫び声と同時に平均台がぐらりと動いた。後ろの方の誰かが上り損ねたのだろうか。


(!)

 体幹がぶれて膝がぐらつきながらもなんとか体勢を整えようとしたところで、

「ひゃあっ!!」

再び甲高い悲鳴と共に今度は直ぐ後ろを歩く選手の手が私の体操着の背中を掴んだ。


「きゃ…!」

 宙を掴むように手を伸ばす。


 ドンッ!!

 でも、なす術なく引き落とされ、地面に叩きつけられた。しかも一瞬遅れて落ちた後ろの選手が倒れた私の脚の上にどすんと落下する。


(痛ッ…!)


 下敷きになった膝から下に強い痛みが走り、最初に着地した半袖の肘は砂に擦れてじんじんと染みる。


「大丈夫か!?」

 刹那に低く通る声が飛んで来る。ざっざっと砂を蹴る音を立てて、誰か駆け寄る気配がした。