先生の表情が困惑したように曇った。


「そうじゃなくてさ。

 なんか…俺ら、似てるよな、って思って…」


(!?)

 似てる…?
 どこが…?


「全っ然!!」

 いつもいい加減でチャラくて、女子高生に囲まれていい気になってる先生と何が似てるのよ。

 それとも私が晴くんに失恋して、先生が姉に失恋したこと?
 馬鹿にしないで。そんなのと一緒にしないでよ!


 なのに私を映す先生の眼がどこか優しくて、それでいて悲しげで、私は手を振り切ることが出来なかった。

 私を包む掌の温もり。

 分かってる。そんなもの信じても私はまた傷付く。

 なのに、振り切れなかった。


「……」

 初夏の薫りを含む風にスカートの裾と髪を弄ばれながら、私は黙り込んだ。


「…だよな」

 先生が手を離す。

(あ…)


 先生は「んんっ!」と伸びをして立ち上がると、腕時計を見た。

「あぁ、確かに教室戻るには言い訳がいる時間だなー」


 5時間目はもう半分過ぎている。


「また保健室で休んどくか。どうせお前、目赤いしその方がいいだろ?」

 先生が先に歩き出す。


(行かないで…)

 先生の大きな背中が離れていくと、胸がぎゅっと疼く。


「…待って」


 先生が足を止めて振り返る。


「指切り、しよう?」


 先生は不思議そうに首を傾げる。

「指切り?何の?」

「……

 意味はないけど」