「…はい、おしまい」



 私の隣には、話を一頻り聞いた仁科先生が神妙な面持ちで座っている。

 傾き始めた午後の陽射しの下。
 授業の始まりを告げるチャイムはとうに鳴って久しい。



「そんな恐い顔しなくていいよ。別にそんな顔してもらうほどの価値もない話」

 私は立ち上がってスカートの後ろをはたく。


「あぁぁー、大幅遅刻。今教室戻ったら怒られちゃうかなー」

「……」

「先生は?戻らなくていいの?」


 振り返ると先生は胡座をかいて座り込んだまま、額に手を当ててがっくりと項垂れていた。


「お姉ちゃんにショック受けた?」

「そんなんじゃないよ」

「じゃあ私が憐れだと思った?」

「……」

「憐れまれると余計傷付くから」

「…すまん」

「……」


 素直に謝られると本当に自分が『憐れまれるような存在』なんだと思い知らされる。


「…いいよもう」

「……」

「私行くね」


 螺旋階段の方に向かいかけた時、ぱっと先生に手を掴まれた。


「!…何?」

「いや、あの…」

 私を見上げる先生の視線が揺れる。


「…なぁ青海」

「何よ…」

「俺で良かったら、力になるから」

「……

 同情はいらない」

「……」