彼を見つけたのは、私が初めて図書委員の仕事をした日のこと。
帰りがけ、窓の戸締まりを確認していると、暗いグラウンドをひとりで走っている彼の姿を見つけた。
風の噂で、サッカー部に天才的な才能を持つ部員がいるとは聞いていた。そしてそれがグラウンドを走っている彼だと、噂の類には疎い私でも分かるほどには、彼は有名で。
そんな天才が居残りで自主練習をしている。
最初は、そのひたむきな姿に惹きつけられた。
彼は自主練習をした後、必ずひとりで広いグラウンドを地ならしし直した。
意識してみれば、朝も早く登校して自主練習をしているようだった。
彼はどこまでも努力の人だったのだ。
そんなことを知ってからだ。
私が彼を意識するようになったのは。
だからといって、近づきたいとか付き合いたいとかいう願望はない。
この図書室からひっそり眺めている距離感がちょうどいい、そう思っていた。
だって彼は圧倒的に主人公側の存在だから。
――でも、その距離は、ある日突然いとも簡単に崩れた。