始業時間ギリギリ。向かい風もあって髪がぼさぼさだ。

こんな姿をあの人に見られたらまずいと、席に着くなりすぐに手鏡で髪を直した。


(多分、まだあの人は来てないはず)


いつも私よりも遅く来るから。

と思っていたんだけど。


「なんか後ろの髪、すごいことなってるよ?」


後ろから声がした。


振り向くとあの人、『泉亮』が立っていた。


笑うと長いまつげが更に強調されて、優しい雰囲気になる。

心なしか柑橘系のいい匂いがしてここだけがまるでオレンジ畑のような空間が広がる。


「聞いてる?」


「あ、え?! 嘘?!」


「ほんとほんと、ちゃんと髪とかした?」


なんて言って私の髪に触れた。


え?今私の髪に触れてるーー?


ドキドキする距離感。触れられたそこだけ、異様に熱く感じる。


「亮~!」


声がするとパッと泉くんが手を離した。


駆け寄って来たのは同じクラスの山下さんだ。

山下さんと泉くんは、親ぐるみでとても仲がいいらしく、二人は付き合っていると噂を私も耳にしたことがある。

確かに山下さんは背も高くすらりとしたモデル体型で髪は私と違ってサラサラストレート、泉くんと横に並べばとてもお似合いだ。


(ああ、勝ち目ないなあ)


ぼーっと二人を眺めいると始業のベルが鳴った。


そこへ丁度「始めるぞー」と、担任が入って来た。


泉くんはさっきの事はなかったかのように山下さんと楽しそうに話ながら席へと向かった。

私はただ黙って二人の背中を見送るしかなかった。



「恋ってのはね、積極性が必要なんだよ」


昼休み、お弁当を食べながら親友のサナが言った。


「それは分かるんだけどね。きっかけがないからどうやって話せばいいか…」


「何でもいいんだよ。きっかけなんて、ないなら作っちゃえ」


「作るって言われてもなあ」


私は玉子焼を頬張って首を傾げた。


「ていうか何で泉くんが好きなの?イケメンだから?」


「うーん。確かにかっこいいのもあるけど、それだけじゃない何か」


「何か?」


「懐かしい感じがする」


懐かしさ。私が東京へ引っ越してくる前、五歳までいた愛媛の雰囲気。

もしかして泉くんも愛媛にいたことあるんだろうか。そうだったらいいのにな。


「とにかく待ってるだけじゃダメだね」


パチ、弁当箱を閉じてサナが言った。


確かに、何かきっかけ作らないとな。


でもどうやって???