「このたび、わがFSPの将来有望な二人の捜査官が、その尊い命を失ったことは、誠に遺憾であり、FSPにとっても、大きな痛手と言わざるを得ません。あらためて、ご遺族のみなさまには、お悔やみを申し上げます。二人の捜査官は……」
 FSPウェストシティー支局の近くにある墓地では、殉職したレイ・グランチェスター、ミオ・ミルドレット両捜査官の葬儀が行われていた。この墓地は、支局管内で起きた事件の犠牲者や、殉職した捜査官が眠っている。二人の葬儀には、支局長をはじめ、FSPの幹部が出席していた。だが、なぜか二人の遺族は出席していない。
 出席者の一人で、両捜査官の上司にあたる第一捜査部のジャック・ブラント部長は、神妙な面持ちで支局長の弔辞を聞いていた。部下を失った悲しみと言うより、何か物思いに耽っているような感じである。まだ四十を過ぎたところだが、苦労のせいか白髪混じりの頭をしている。いつもの制服を着用しているが、葬儀ということで黒いネクタイを締めている。
 やがて弔辞が終わり、埋葬が始まろうとしていた。ここでブラント部長は、部下の埋葬を見届けることなく墓地を立ち去ろうとした。その途中、法務局の幹部と目が合った。FSPは独立した捜査機関であり、法務局の管轄ではない。にもかかわらず、なぜか幹部が出席していた。ブラント部長は、周囲に気づかれないように、軽く会釈をして墓地を後にした。
 停めてあった車に乗り込んだブラント部長は、大きくため息をついてエンジンをかけた。妻からは健康のために煙草をひかえるように言われているが、かまわず煙草に火をつけた。
 5分ほど車を走らせると、FSPの支局に着いた。ブラント部長は駐車場に車を停めると、建物の中に入っていった。エレベーターで4階へ上がり、会議室へ向かった。ドアの前には、若手捜査官が立っていた。
 「異状はないか?」ブラント部長は聞いた。
 「はい。ご命令のとおり、誰もこの部屋には近づけておりません」
 「ご苦労。もういいぞ」
 「はい、失礼します」若手捜査官は、敬礼をしてその場を立ち去った。
 ブラント部長は、念のためにもう一度周囲を見渡して、ドアをノックした。聞きなれた声で返事が聞こえた。ブラント部長はドアを開けた。
 中には、殉職したはずのレイ・グランチェスター、ミオ・ミルドレット両捜査官がいた。