夕暮れ時をすぎ、辺りはだいぶ暗さを増している。
 街の中心部ともなると、色とりどりのネオンサインがきらめき、その日の生業を終えた人々がごった返して、昼間と変わらない賑わいを見せている。
 しかし、中心部から離れた田園地帯になると、様相が違ってくる。街灯もなく、明かりがもれている民家もまばらである。都会のような喧騒もなく、時折犬の遠吠えが聞こえてくるくらいである。
 そんな静けさの中、漆黒の闇に包まれた上空を、一台のジェットモービルが飛行していた。
 ジェットモービルとは、いわば空飛ぶ自動車である。陸上を走ることもできるが、基本的には上空を飛行する。最高速度は時速100㎞でそれほど速くないが、道路が混雑している状況では有効的である。定員は2名で、人の輸送には向いていない。そしてこのジェットモービルを操縦できるのは、限られた人物のみである。それは、FSPの捜査官だ。
 FSPとは、国家連邦特別警察の略称である。多発する凶悪犯罪や特殊犯罪への対策として組織され、捜査官と呼ばれるスタッフが、日夜捜査活動に励んでいる。そしてその捜査官だけが、ジェットモービルの操縦を許されているのである。
 今上空を飛行しているジェットモービルは、フェアレディ号の愛称で呼ばれていて、操縦しているのは、FSPの二人の捜査官である。
 レイ・グランチェスターと、ミオ・ミルドレット。ともに25歳の女性捜査官である。通常FSPでは、ベテランと若手の捜査官がペアを組むことが多いが、この二人は無鉄砲な性格で、誰もペアを組みたがらず、結果的にこの二人がペアを組むことになったのだ。
 どういうわけかフェアレディ号は、FSPが取り扱うような事件が起こりそうにない地域の上空を飛行し続けている。静けさの中をエンジン音が鳴り響き、サーチライトの明かりが闇夜を照らし出していた。
 そしてそのフェアレディ号を、一台の自家用ヘリコプターが追跡していた。ヘリコプターは、つかずはなれずフェアレディ号の後を追っている。二人の捜査官は、ヘリコプターの存在に気づいているはずだが、なぜか追跡をかわそうとはしない。
 やがてフェアレディ号は、裏山の上空にさしかかった。ここまでくると、人家はほとんど見当たらない。それを見計らったように、ヘリコプターに搭載されたミサイルの照準器が、フェアレディ号を捕らえた。この照準器は暗視型になっており、暗闇でも確実に標的を捕らえることができる。ヘリコプターの操縦士は、フェアレディ号との距離を確認すると、ミサイルの発射ボタンを押した。ミサイルは轟音を立てて、まっすぐフェアレディ号へ向かっていった。