息を整える。
心拍数がいままでにないほど上がった。

走ったところでなにも変わらないのはわかっているけど、いてもたってもいられなかった。
なのに、いま怖気づいて動けない。

ここは逢坂先輩と日向先輩のバイト先。
息を整えているから入れない、と言い訳をつくりこの場で立ち止まっている。


怖いに決まってるよ。
てっちゃんに話を聞いてもらったことで、気持ちの整理がついたとはいえ追いつかないことだってある。

勢いで行動していいことなんてない。
いまは勢いだけで来てしまったから。

どうしよう。

入るか。
今日はやめようか。

いや、やめたらきっとわたしはこれからも逃げてしまう。

勢いで行動していいことなんてないって思ってるけど、勢いでしか行動できないことだってある。



「あ、桜音ちゃん。いらっしゃい」

「ふわっ!」

「ははっ。おもしろい驚き方」


振り向くと肩を震わせて笑っている逢坂先輩。
白シャツにエプロンがすごく似合っている。
高校の制服と似ているけど、全然違う。

かっこよさが5割増しに見える。