全く、美咲ったらまだ塾に出ていないことに気づいているのだろうか。こういう風にはしゃいだら、他の人達に迷惑だ。
わたしと同じように思ったのか奈緒が、
「美咲ったら、しーっ!」
と、口に人差し指を当てて言った。
「あっ、やばい!」
美咲は、気がついたのか慌てて口を押さえた。
「すごいじゃん、沙織。水族館デートなんて、ステキ!」
塾のドアを開けて外に出た途端に、もうはしゃいでいいと思ったのか美咲は、また目を輝かせた。
「デートじゃないよ! ただ……」
そこから言葉が失って、わたしは俯いた。
「ん? ただ、何よー」
わたしがどう言えばいいのか、もんもんと考えている間に、美咲は顔を近づけてくる。
「ちょっと、遊びに行くだけだよ!」
これ以上からかわないで、と言わんばかりにわたしは美咲を引きはがした。
「沙織、可愛い!」
「んもー、やめてってば!」
「まあ、何でもいいけど沙織が楽しめるようなお出かけになるといいね」
奈緒がわたしをフォローするように言ったけれど、美咲は、
「お出かけって……。デートだよ?」
と言っている。
「だから違うよー!」
美咲ったら、こんなに恋愛についてしつこかったっけ。
とにかくわたしは、その後全然違う話に変えて、水族館の会話はそのまま終わった。



