お前がいる場所が、好き。Ⅰ


全く、美咲ったらまだ塾に出ていないことに気づいているのだろうか。こういう風にはしゃいだら、他の人達に迷惑だ。


わたしと同じように思ったのか奈緒が、



「美咲ったら、しーっ!」



と、口に人差し指を当てて言った。



「あっ、やばい!」



美咲は、気がついたのか慌てて口を押さえた。



「すごいじゃん、沙織。水族館デートなんて、ステキ!」



塾のドアを開けて外に出た途端に、もうはしゃいでいいと思ったのか美咲は、また目を輝かせた。



「デートじゃないよ! ただ……」



そこから言葉が失って、わたしは俯いた。



「ん? ただ、何よー」



わたしがどう言えばいいのか、もんもんと考えている間に、美咲は顔を近づけてくる。



「ちょっと、遊びに行くだけだよ!」



これ以上からかわないで、と言わんばかりにわたしは美咲を引きはがした。



「沙織、可愛い!」



「んもー、やめてってば!」



「まあ、何でもいいけど沙織が楽しめるようなお出かけになるといいね」



奈緒がわたしをフォローするように言ったけれど、美咲は、



「お出かけって……。デートだよ?」



と言っている。



「だから違うよー!」



美咲ったら、こんなに恋愛についてしつこかったっけ。
とにかくわたしは、その後全然違う話に変えて、水族館の会話はそのまま終わった。