お前がいる場所が、好き。Ⅰ


「あっ! 沙織ちゃんだ!」



翌日。桜花ちゃんは、何かしらのパンフレットを片手に、近づいてきた。



「ねえねえ、沙織ちゃん。ちょっとお願いがあるんだ」



彼女の可愛い声と笑顔につられて、



「なーに?」



と、わたしも笑顔で聞き返した。



「悪いけど、あの塾すぐにやめてくれる?」



「……えっ?」



わたしの口から、思わず太い声が出てしまった。同時に笑顔も消えた。


塾をすぐにやめてと言われても、簡単にやめる訳にいかない。



「あっ。ごめん、ちょっと違った」



違うのか。
わたしは安心して胸をなでおろした。



「あの塾じゃなくて、沙織ちゃんにもっといい塾、見つけたんだ」



「わたしにもっといい塾? どういうこと?」



やっぱり塾の話に変わりはないのね。
確かに「『ちょっと』違う」と彼女は言っていたのだから、塾の話じゃなかったら、『ちょっと』どころじゃないな。



「だから、沙織ちゃんにお似合いの塾を見つけたの。友達が通ってる塾、すごくいいって評判なんだって!」



「は、はあ……。でもわたし、あの塾を続け……」



「_____その塾体験に行って! きっと気にいるはず!」



わたしが言い終わるより早く、桜花ちゃんはパンフレットを渡してきた。


これ、塾のパンフレットだったのね。



「絶対行ってね!」



彼女は、完全にわたしを信じているような眼差しで言ったが、わたしは返事が出来なかった。