「あっ! 沙織ちゃんだ!」
翌日。桜花ちゃんは、何かしらのパンフレットを片手に、近づいてきた。
「ねえねえ、沙織ちゃん。ちょっとお願いがあるんだ」
彼女の可愛い声と笑顔につられて、
「なーに?」
と、わたしも笑顔で聞き返した。
「悪いけど、あの塾すぐにやめてくれる?」
「……えっ?」
わたしの口から、思わず太い声が出てしまった。同時に笑顔も消えた。
塾をすぐにやめてと言われても、簡単にやめる訳にいかない。
「あっ。ごめん、ちょっと違った」
違うのか。
わたしは安心して胸をなでおろした。
「あの塾じゃなくて、沙織ちゃんにもっといい塾、見つけたんだ」
「わたしにもっといい塾? どういうこと?」
やっぱり塾の話に変わりはないのね。
確かに「『ちょっと』違う」と彼女は言っていたのだから、塾の話じゃなかったら、『ちょっと』どころじゃないな。
「だから、沙織ちゃんにお似合いの塾を見つけたの。友達が通ってる塾、すごくいいって評判なんだって!」
「は、はあ……。でもわたし、あの塾を続け……」
「_____その塾体験に行って! きっと気にいるはず!」
わたしが言い終わるより早く、桜花ちゃんはパンフレットを渡してきた。
これ、塾のパンフレットだったのね。
「絶対行ってね!」
彼女は、完全にわたしを信じているような眼差しで言ったが、わたしは返事が出来なかった。



