美咲と少し喋った後、わたしは帰ることにした。
美咲には、まだ熱があるんだから、あまり疲れさせたら駄目だから。
「ありがとう、沙織!」
玄関で靴を履きながら、美咲は言った。
「こっちこそ。勝手に押し付けてごめん。学校に来るの、楽しみにしてるね」
「うん。早く治して行くから!」
「じゃあね!」
わたしは美咲に手を振りながら、表へ出た。
それにしても、美咲の容態が悪化していなくてよかった。
顔色も声も、前はあんなに弱々しい感じだったというのに、今日は元気な美咲とほとんど同様だった。
ふと、電話の着信音が鳴った。
「もしもし?」
『沙織、どうしたの?』
お母さんだ。そういえば、美咲の家に行ったことを、お母さんは知らなかったんだった。
「ああ、ちょっとね」
『ちょっとじゃ分からないわ。ちゃんと話して』
「ええっと、奈緒と学校の話をしててさ」
わたしは、とっさに嘘をついた。アポなしで人の家に行ったなんて、なんだか言えなかったから。
『ああ、そうだったの! 美咲ちゃんはどうしたの?』
「美咲は熱出して、ここのところしばらくきてないの」
『そう。とにかく早く帰ってらっしゃいね』
電話は、ぷつりと切れた。
確かに、今日は大分帰りが遅くなったな。
わたしは小走りで家の方へと向かった。



