わたしは、ドーナツの入った箱を慎重に持ちながら、湖の場所へ行った。


本当に、あの場所は飽きない。


いつもと同じように、寺本の後ろ姿が見えてきた。



「寺本ー!」



わたしが叫ぶと、いつもと変わりなく寺本が振り返った。



「増山!」



彼に増山、と言ってくれるとなんだか元気が出る。



「なんだ? また今日もなんか買ってきてくれたのか?」



寺本が、わたしの持っている箱に気づいて言った。



「うん。ミニドーナツ、買ってきたんだ。プレーンなんだけど、みんな好きかな?」



「本当に悪いなぁ。あいつら絶対喜ぶよ」



背伸びしながら、寺本は言った。



「本当に!?」



「餓鬼だもん。餓鬼ってやっぱ、そういうの好きだからさ」



確かに小さい子供は、お菓子が好きだし、彼の言う通りかもしれない。



「そういえば、そうだね。わたしは兄弟がいないから、全然小さい子のことなんか見てないや」



寺本には、あんな風に小さな兄弟がいる。しかも、こうして遊びに連れて行ってるから、ちゃんと見ている。
本当にえらいなぁ、と思う。