「お前が言うと、俺が怒った言葉があるだろ。分かるか?」



突然思ってもみないことを問われて、わたしは思わず瞬きを繰り返してしまった。
わたしが言うと、寺本が怒った言葉。
わたしは、記憶を探ってみた。



『寺本ったら、すごい子供っぽい感じだよ! 可愛いー!』



『可愛いねー、寺本は』



あのことを言ったら、必ず彼はわたしを怒っていた。



「”可愛い“?」



「あたり」



わたしが眉を潜めながら口に出すと、月目にした寺本。



「あの”可愛い“って言葉。内心ずっと思ってた」



「え?」



「”可愛い“は、お前が言うことではない。俺が言うことなんだよ」



わたしが言うことではない。それが理由で怒っていたような感じはしなかったと思うけれど。



「寺本が言うこと……?」



「そう、俺が言われるんじゃなくて、お前が言われることなんだよ」



寺本。
そんなことを言うと、この冷たくて青い湖も、熱くなっちゃうよ。



「寺本……?」



「増山……。可愛いのは、お前だからな?」



かっこいい笑顔を見せた彼を見て、わたしは熱いだけでなく、嬉しい気持ちも込み上げてきた。