下駄を履いて、わたしは夏祭りが始まるところまで向かった。
他の人たちも浴衣を着て、わたしと同じ場所へ向かおうとしている。
いつもは運動靴を履いているから、やっぱり歩きづらい。夏祭りが行われる場所は、歩いて10分くらいなので、そう遠くはない。
けれど、彼を待たせるわけにはいかない。
たもとを揺らしながら歩いていると、美味しそうな匂いがしてきた。
この匂いで、わたしは目的地にだいぶ近いことに気がついた。屋台の食べ物の匂いだ。
目的地に向かって早歩きをしていると、近くで男の子と女の子の話し声が聞こえた。けれど、男の子の声は聞き覚えがあり、女の子の声は聞き覚えがない。
「あ、やっと友達が来た」
「そっか。行ってこい、風音」
声のする方へ歩き、見てみるとやっぱり正体は寺本だった。
「うん!」
赤い花飾りに赤い着物を着た女の子が、向こうへ小走りで去っていくのが見えた。その背中を、彼が見送っている。
「寺本」
わたしが一声かけると、彼は振り向いてくれた。
「お待たせ」
にっこりと笑ってそう言うと、寺本もわたしに向かって柔らかい笑みを浮かべた。
「1番上の妹さん?」
「ん。友達と約束してたっぽいからな」
やっぱり彼はしっかり者なんだな、とわたしは思った。小さい弟さんや妹さんだけじゃなくて、ちゃんと歳の近い妹、風音ちゃんのことも大切にするのか。兄弟がいる人だと、当たり前なのかな。けれど、やっぱりそういうところは、彼の良いところだ。



