「沙織ー! お祭りに浴衣を着て行くなら、そろそろ準備しないと間に合わないわよ!」



数日が経って、夏祭りの当日の日がやってきた。わたしは部屋で少女漫画を読んでいると、お母さんの大声が聞こえた。



「もうそんな時間!?」



見ると、確かにもう浴衣を着ないと遅刻する。



「お母さんが着せてあげるから、下に降りてきなさーい」



「はーい」



わたしは漫画をしまってから浴衣を持ち、階段を降りた。わたしの浴衣は水色の朝顔柄であり、「水色が好きな沙織にぴったりよ」と言ってお母さんが買ってくれたものである。


わたしが浴衣を渡すと、お母さんはせっせとわたしに着せて、帯をきゅっと結んだ。



「よし、ちゃんと着れたわ」



浴衣姿のわたしを見て、お母さんは両手を肘の当てて嬉しそうに笑った。
けれど急に何かを思い出したのか、すぐにお母さんから笑顔は消えた。



「あ、沙織。ちょっと目をつぶっていて」



「うん」



わたしは言われるがままに、目を閉じた。お母さんに髪を触られたけれど、どういう状況が全然分からない。



「はい、いいわよ」



何があったのか分からないけど、お母さんが手鏡を渡して来たことで、状況が分かった。わたしの髪に、浴衣に合った水色の花飾りがついている。



「あれ! どうしたの!?」



「お母さんから、サプライズよ! 浴衣に着替えてお祭りに行くなら、髪飾りもつけて、おしゃれしないとね!」



ぽんぽん、とわたしの肩を叩きながら、お母さんは楽しそうに言った。



「嬉しい! お母さん、ありがとう! 行ってきます!」



わたしは、そう言って玄関まで向かった。