自分の弟や妹に手を掴まれて、立ち尽くしたままのわたしを見て、寺本は近づいてくる。



「増山、ごめん。堤から話を聞いたよ。俺が栗原を家へ連れてきたんだ」



わたしの目の前で立ち止まってから、彼は言った。



「風音も、栗原が心配だったらしくて。家が近かったから、川野と鉢合わせになることもないだろうと思ったんだよ」



そういえば、風音ちゃんも桜花ちゃんが川野くんに暴力を振るわれていることを知っているものね。


昔、迷子になったところを助けてくれた人なんだから、そりゃあ心配するに決まっている。



「お前には、栗原を守れないって言ったのに結局俺はこんなことしちまったよ。本当に悪かった」



バツが悪そうな顔をして、寺本は言った。
そんな寺本を見て、わたしはまたあの時と同じ気持ちが込み上げてきた。
桜花ちゃんの過去の話を聞いた時と同じように、胸が押しつぶされるような気持ち。


けれど、あの時は雷だった。今は晴れている。晴れていて、小さな子供達の楽しそうな声が聞こえている。
そんな天気や子供達の楽しそうな声とは対照的に、彼もわたしも表情を曇らせている。


まるで周りが、わたし達を嘲笑っているような感じがした。


桜花ちゃんは、寺本にとって大切な友達。
だから、大切にしただけなんだ。



「寺本は、悪くないよ」



こんなことしか言えない自分が、本当に嫌だ。