あの後わたしは、奈緒と美咲と一緒に帰宅した。本当に2人がいてくれて、助かった。いなかったら、今頃迷子になって全然帰れなかったかもしれない。
わたしは、少し息を吐いてから家のドアを開けた。
「ただいま……」
「おかえり」
顔を上げると、視界に映ったのはふんわりと微笑んだお母さん。
けれど、そんなお母さんの笑顔はすぐに消えた。
「どうしたの、沙織?」
わたしの表情が曇っているからだ。美咲にああいうことを言ってもらっても、不安な気持ちが完全になくなる訳じゃない。
「ううん、なんでもない」
「遠慮しないで、言っていいのよ? お母さん、沙織に何か辛いことがあったらなんでも聞きたいから」
やっぱり、お母さんは鋭い。
わたしよりお母さんの方が、人間関係についてずっと悩んだことがあるから分かるかもしれない。
「あのさ、質問していい?」
「いいわよ」
「こ、恋人じゃない人の髪って、撫でたりするもの?」
わたしがこんな質問をするだなんて、絶対お母さんは予想してなかっただろうな。
「沙織?」
お母さんは、面食らった。
まあ、そりゃあそうなるよね。
いきなり、こんなことを聞かれてもすぐに答えなんて出る訳がない。