わたしと手を握ったまま、桜花ちゃんは何も喋ろうとしない。
俯いたまま、暗い顔をしていてずっと口を閉じている。


突然、会いたくもない大嫌いな元カレに会ったんだから、そりゃあ明るくなれないだろう。


寺本も何も喋ろうとしていない。
さっきのことで、まだ腹が立っているのか口を結んでいる。


もちろん、わたしも何も喋る気になれない。



「あ、わたしの家」



気がつけば、桜花ちゃんの家の前に来るまで何も喋ることなく、そしてわたしは彼女の手を握ったままだった。


桜花ちゃんは、わたしの手を離して玄関の方へ向かった。



「陸男くん、沙織ちゃん。またね」



口角を上げて、桜花ちゃんは軽く手を振った。



「バイバイ」



わたしも手を振り返すと、桜花ちゃんはドアを開けて家の中へ入った。



「それにしても、寺本はなんで来たの?」



桜花ちゃんがいると、聞きづらかった。彼女は結構ショックを受けていると思うので、ずっと何があっても口を閉じたままにしてしまっていた。



「告白されたのが忘れられなくて。栗原……友達としては嫌いじゃないから。だから、気がついたらつい栗原と増山の学校の方に脚が向かってて」



彼は、少し下の方を向いてそう言った。