苦痛に歪んだ凛々しく端正な顔をどこか切ない表情に変えると、彼は、瞼の裏に浮かび上がる、今は亡きアーシェの大魔法使い(ラージ・ウァスラム)の姿に想いを馳せる。
 幼かった自分を救い育ててくれた、厳しくもあり優しくもあった師、それがアーシェ一族最後の大魔法使い、バース・エルディ・アーシェであった。
 父にも似たその人を、彼は、妖剣アクトレイドスと引き換えに失った・・・・。
大して広くもない風穴の中に、緩やかに吹き込んでくる夜風が、焚き火の炎を静かに揺らめかせている。
 ゆらゆらと立ち昇る炎の影が、彼の端正な顔に悲しみにも似た影を刻んでいった。
 見事な栗毛の髪に触れていく透明な風の両手は、静寂なる夜の調べをその鋭敏な聴覚に響かせながら、星屑の宝石で飾られた夜の空へと戻っては消えていく。
 ジェスターが、じりじりと痛む左胸を押さえたまま、僅かに、燃え盛る緑の炎のような緑玉の瞳を伏せた時だった・・・・
 風の調べしか聞こえていなかったその耳に、どこか寝ぼけたような、リタ・メタリカの姫の声が掠め通ったのである。
「まだ・・・・眠らないのですか・・・?」
ジェスターは、その鮮やかな緑玉の瞳をハッと開くと、その視線でちらりと、小さな絨毯に横になったまま、微かに紺碧色の瞳を開いているリーヤティアに向けたのである。
「・・・・起こしたか?」
「・・・・いいえ・・・・・・貴方は、時々・・・そんな表情(かお)をして・・・どこか遠くを・・・見ている時が・・・・・・どうし、て・・・」
 そこまで言って、彼女は再び、その長い睫毛を伏せた、そして、ほんの僅かな間に、また安らかな寝息を立て始めてしまう。
 そんな彼女の姿を、怪訝そうに眉根を寄せてまじまじと見やると、ジェスターは、半分呆れたような半分感心したようなどこか複雑な表情をして、唇だけで小さく笑うのだった。