「何をするつもりだ・・・・!?」
「そなたに巣食った女妖を引き剥がす・・・・苦痛を伴うぞ?だが、絶対に意識を離すな・・・そなたなら耐えられるはずだ」
 疾風に棚引く蒼銀の髪の下で、形の良い眉を僅かに眉間に寄せ、鋭い表情で差し伸ばされたその指先が、あと少しで彼女の額に刻まれた炎の烙印に触れる・・・正にその次の瞬間だった。
 炎の烙印が眩いばかりの紫の光を解き放ち、虚空に揺らめき立った黒炎が、ラレンシェイの体を一瞬にして飲み込んでいったのである。
「・・・・!?」
 スターレットは、躊躇いもせずその指先を黒き炎の中に差し入れる。
 しかし、僅かに遅い。
 焼け付くような痛みが差し伸ばされたその手先に走り、彼女を飲み込んだ黒い炎は、激しい火の粉を舞い散らせながら、歪んだ空間の最中へと溶けいくように消失したのである。
「おのれ・・・・・・!」
 スターレットの雅な顔が、再び口惜しそうに歪んだ。
 激昂する自分を制するように、彼は、その美しい深紅の瞳を静かに閉じると、彼女の気配が消え行った、ファルマス・シアと呼ばれる荒野の地で、ふつふつと湧き上がる怒りにその肩を振わせた。
 輝くような蒼銀の髪が、落日の茜に染まり、ただ、立ち尽くす荒野の風に乱舞する。
 再び開かれたその瞳が、ゆるやかに本来の銀水色に戻っていく・・・彼は、まだ熱い痛みの残る右腕を左手で押さえると、その雅な顔を爛と鋭く引き締めたのだった。
 傷を押さえる指先から、紅の帯をひいた鮮血がこぼれ落ちる。
 それは、不吉なほど鮮やかな茜に染まる西の空に、最後の光を放つ落日が、音も無く沈みいく日のことであった・・・・・・