荒い息の最中から飛び出したその怒声は、明らかにエストラルダ語であった。
 スターレットの深紅の瞳が、揺れる蒼銀の前髪の下で驚愕に見開かれた。
「ラレンシェイ・・・・!」
「早くしろ!!こやつはすぐに私を跳ね退ける!!」
 麗しい頬にかかる漆黒の髪の合間から覗く、凛と強い茶色の瞳が、睨みつけるようにスターレットの深紅の瞳を見る。
「そなた・・・・・まだ心があるのだな?」
 流暢なエストラルダ語で呟くようにそう言った彼の雅な顔が、不意に、微かな安堵感で小さく微笑んだ。
 彼の肢体を囲んでいた蒼き輝きを纏う疾風が、何故か緩やかに消えていく。
 レイノーラから意識を奪い取った異国の女剣士ラレンシェイは、綺麗な眉を眉間に寄せながら、地面に膝まずいた姿で、尚も彼に向かって怒声を上げたのだった。
「うつけかおぬし!?魔法を解いてどうする!?私は討てと言っているのだ!!」
 本来の凛と厳(いかめ)しい鋭い表情を取り戻したラレンシェイに、スターレットは、ゆっくりと鮮血にまみれたその右手を差し伸ばした。
 彼女は、鋭利に眉間を寄せたまま、いつもの冷静な表情に戻った彼の雅な顔を見る。
「何をしているのだ!?だからおぬしは臆病者だと言うんだ!!」
「そなたの言う通りだ・・・・ラレンシェイ。私に、そなたを討つ勇気などない・・・」
 静かにその身を落としながら、そう言って伸ばされた彼の指先が、彼女の額に刻まれた紫色の炎の烙印に近づいていく。
 深紅に輝く彼の両眼が爛と鋭く発光した。
 彼の肢体から吹き上がるように立ち昇った蒼きオーラが、ゆらゆらと揺らめいてその腕に絡み付く。
 ラレンシェイの鋭い茶色の両眼が、驚いたように見開かれた。