神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

      *
 闇の結界に包み込まれたその城の宮殿に、一人の青年が、黒い炎の中から緩やかに姿を現した。
 松明の火だけが灯る薄暗い宮殿の最中に、闇の色をそのまま映したような漆黒の髪と、鋭い三白眼の水色の瞳がゆらゆらと浮かび上がっている。
 体格の良い腰に履かれた紫銀の剣が、邪で鋭利な気配を放ち、その広い額には、羽を広げた一角鷲の姿が刻まれた紫銀の二重サークレットが飾られている。
それは間違いなく、その青年が魔剣を操る魔法剣士であることを示す証であった。
 濃い紫色のローブを翻しながら、彼は、ゆっくりとした歩調で、先程から、大きな窓の向こう側に見える闇の虚空を眺めていた、この城の主たる闇の魔法使いの元へ御意して来る。
『ゼラキエル様・・・・全ての準備は、整いましてございます・・・次のご指示を・・・』
 水色の鋭い三白眼が、黒い前髪の合間から、ゆっくりとこちらに振り返った魔王と呼ばれる青年、ゼラキエルの冷酷で端正な顔を見た。
 ゼラキエルは、冷たい刃のような・・・しかし鮮やかで美しい緑玉の瞳をチラリと、幽幻六部衆と呼ばれる精鋭の一人にして魔法剣士たる青年ツァルダムに向けると、その唇で何やら思惑有りげに微笑したのである。
『ならばお前は、全ての六部衆を呼び起こせ、目覚めた者どもは私の元へよこすがいい、憑(よりまし)は見繕う。
・・・・それで、ツァルダム?青珠の【息吹(アビ・リクォト)】はいかがした?』
『は、それが・・・・・』
 ツァルダムは、細い眉を実に不愉快そうに眉間によせて、静かだが鋭い口調で言葉を続けた。
『小ざかしい白銀の守り手に邪魔をされまして・・・・・あやつめはカルダタスに封じましたが、その手中に【息吹(アビ・リクォト)】を持ったまま・・・』
『・・・白銀の守り手?銀竜族のアノストラールか?』
『はっ』
『あやつも、時を越えてなお私の邪魔をするか、懲りぬ輩だ・・・・
 竜狩人(ドラグン・モルデ)のそなたとて、銀竜が相手では相当苦労したのだろうな?』
 そう言ったゼラキエルの冷淡な緑の両眼が、ふと、鋭利に細められる。
 そんな主君の鋭い表情を見やり、ツァルダムは、僅かばかり悔しそうな表情をして、低い声で言うのだった。