神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 ジェスターは、その燃え盛る炎のような鮮やかな緑玉の瞳を空に向けて、古の言語を用い、天駈ける風の精霊に言うのだった。
『白銀の守護騎士に伝えてくれ・・・俺はファルマス・シアへ行く、お前がもし闇の者を追って森を出たのなら、いずれどこかで会うだろう・・・と』 
 高い声を上げて、天空の風が鳴いた。
 風の向きが変われば、いずれ、懐かしい友の元へその声が伝わるだろう・・・・。
 全く意味の理解できない言葉を口にしたジェスターの横顔を、きょとんと見つめながら、リーヤは思わず彼に問いかけてしまう。
「一体、何をしたのです?貴方は今?」
 そんな彼女に、ゆっくりと緑玉の瞳を向けると、ジェスターは凛々しい唇だけでどこか不敵に笑って答えて言うのだった。
「お前には、風の精霊の声は聞こえないからな」
「風の精霊?」
「空と大地を駈ける風の精霊は、大抵のことは全て知っている。伝言を頼めば、気まぐれだがいずれ相手には伝えてくれる」
「伝言?・・・一体誰に?」
「お前もいずれ会えるさ・・・スターレットだけじゃなく、あいつにもな」
リーヤは、怪訝そうに綺麗な眉を寄せて、何か考え込むような仕草をすると、少しの間を置いて再びその桜色の唇を開いたのだった。
「風の精霊が何でも知っているというなら・・・スターレットの居場所も知っていると?」
「ああ」
「だから貴方は、そのファルマス・シアという地に、スターレットが居ると?」
「今は・・・・の話だが」
「今は?それはどういう意味なのです?」
 矢継ぎ早に何かと聞いてくるリーヤに、僅かばかり苛立った様子で、ジェスターは、面倒臭そうにため息ついた。
「いちいち説明しなきゃわかんねーのかよお前は?行けばわかるだけの話だろう?少し黙ってろ」
「わかる訳がありません!私は魔法など一度も習ったことはないのですよ?!」
 ファルマス・シアへ向かう荒野に、リタ・メタリカの美しき姫の怒声が響き渡った。
 いつもは風の渡る音だけが響く荒涼の大地に、なにやら賑やかな気配が漂う。
 しかし、その先に待ち受けるものが何であるか、天空を渡る風の精霊すら知ることはできなかった・・・・