神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 魔王と呼ばれる魔法使いが、城に攻め入って来たあの日、魔王を追って姿を消した、宮廷付き魔法使いの長たる者、ロータス一族の大魔法使いスターレットと再会するためだった。
 今の彼女の中には、それ以外の理由は他に無い。
 幼い頃より、宮中で顔を合わせていたスターレットはよく自分を理解してくれる兄のような存在だった。
 しかし、それ以上に、彼女の中での彼は、愛しいと言うにふさわしい大きな存在でもあるのだった。
 そんな彼が、自分を置いてどこかへ消えた・・・・
 気性の激しい彼女が、黙って彼の帰りを城で待てる筈もない。
 リーヤティアは、眼前で騎馬を駆るジェスターの背中にどこか苛立ったような声色で言うのだった。
「これからどこへ向かおうと言うのです!?」
 そんな彼女の声に気付いて、ジェスターは僅かに騎馬の手綱を引いて彼女の騎馬の隣に並んだ。
 見事な栗色の前髪の下から覗く、燃え盛る炎のような緑玉の瞳をちらりと、怒ったような顔をするリタ・メタリカの姫に向けて、相変わらずの無礼な口調で彼は言う。
「ファルマス・シア・・・・まぁ、お前にはそれがどこだかわからないだろうが」
 微笑みもせずぶっきらぼうにそう言った彼の言葉に、リーヤはますますその秀麗な顔を怒りに歪める。
 ファルマス・シアとは、古いリタ・メタリカ語で『忘却の街』という意味を示す言葉だった。
確かに、彼の言う通り、そのような土地の名前を彼女は聞いたことも無い。しかし、それより何より、彼のその無粋な言いようが彼女は気に入らないのだ。
 一国の王の娘として、多くの家臣や侍女に囲まれて生活していた彼女は、生まれてこの方、こんな無礼な言葉で話されたことなど一度もない。