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 大大陸シァル・ユリジアン。
その中心に位置する大国、大リタ・メタリカ王国は、その王朝が400年あまりの長きに渡って続く、大陸最大の国土と兵力を誇る強固な国であった。 
 その王都リタ・メタリカは、敵からの進軍を防ぐための巨大な城壁に囲まれた城塞都市であり、栄華を誇るこの国の王の居城スターリン城は、街の中心よりも少し外れた森の只中に悠然と聳(そび)え立っていた。
高き天空が、煌びやかな黒衣を纏い、満月の王冠をその額に掲げた頃。
月明かりと街の灯が照らす城壁の上から、長身の青年が一人、その澱みなく真っ直ぐな鋭い視線で、栄華を極める者の城を見つめやっていた。
歳の頃は二十三、四・・・・
リタ・メタリカの民族衣装を象る鮮やかな朱の衣が、黒絹の夜空から吹き付ける夜風に揺れている。
 若き獅子の鬣(たてがみ)を思わせる見事な栗色の髪が、闇に支配される虚空に乱舞していた。 
 その強い眼差しを彩る二つの瞳は、古よりこのリタ・メタリカで異形(いぎょう)と呼ばれる、激しく燃え盛る緑の炎にも似た美しい緑玉の色。
 その眼差しに囚われれば、その者を虜にし運命すら変えてしまうと古より伝えられた、美しくも神秘的な異形の瞳。
 広い背中に負われた鞘に収められている金色(こんじき)の大剣が、神々しくも禍々しい明らかに異質の気配を醸(かも)し出している。
彼の広い額に飾られた金色の二重サークレットには、決して人の手では施すことの出来ない見事な彫り物が施されており、同時にそれは、この青年が、強大な魔力を持つ魔剣を操る最強の戦人(いくさびと)、魔法剣士と呼ばれる人間であることを示唆していた。
 凛々しく端正に整ったその顔を厳(いかめ)しく歪め、彼は、その緑玉の両眼をにわかに鋭く細めたのである。
「さぁて・・・・・・どっから来やがる?
見つけたら、ただじゃおかねぇぞ・・・・・ゼラキエル」
 低めた声でそんな事を呟くと、彼は、そのしなやかな肢体を、臆すことなく高い城壁の上から虚空へと翻したのだった。
 空中で体をひねり、そのまま見事に石畳の路地に着地した彼の姿を、黒衣の夜空に浮かんだ満月の明かりだけが照らし出していた・・・・・