神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

「どんな理由で、そのバースという者が、貴方にそんな呪文をかけたのかは知りませんが・・・・命拾いしましたね?」
「命拾い・・・・ね」
「痛くはなかったのですか?あんなに深く傷つけられて?」
「何言ってんだおまえ?痛いに決まってんだろう?馬鹿か?」
 どこか的を外した素っ頓狂なそのリーヤの質問に、ジェスターは、怪訝そうに形の良い眉根を寄せて、ちらりと背後に立つ彼女のしなやかな後ろ姿を見た。
 その答えに、珍しく怒ることもなく、リーヤは、綺麗な桜色の唇でどこか可笑しそうに笑ったのである。
「ほら、いつもの貴方に戻った」
ジェスターは、横目で彼女のしなやかな背中を見つめたまま、ますます怪訝そうな表情をする。
「・・・・はぁ?」
「私に感謝しなさい、リタ・メタリカの姫が無粋な魔法剣士を慰めようとしてるんですから」
 そう言って、リーヤは、紺碧色の長い巻き髪を揺らしながら、とんっと彼の広い背中に自分の背を凭れさせたのだった。
 衣を通してその体に伝わってくる、彼女の暖かな体温・・・
 夜風に揺れる見事な栗毛の前髪の下で、形の良い眉を眉間に寄せたまま、ジェスターは、燃えるようなその鮮やかな緑玉の瞳で、ゆっくりと、自分に凭れる彼女を振り返った。
「馬鹿か?そんなこと誰もおまえに頼んでねーよ」
 相変わらずの口調でそう言うと、彼は、再びゆっくりと、金色の月影が舞う黒絹の夜空へ、その鮮やかな緑の瞳を向けたのである。
「なんとでも言いなさい、今夜だけは許してあげます」
 そう言いながら、彼女の紺碧色の瞳もまた、幾千幾万の星々が宝石のようにきらきらと瞬く静寂の夜空を見上げていた。