神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 気配に敏感な彼が、彼女に気付かないはずもない。
 おそらく、彼女がそこにいることを、彼は既に知っているはずだ。・
 だが、彼は振り返らない。
 押し黙ったまま、黒絹の夜空に散りばめられた色とりどりの星々を静かに仰ぐその心の奥には、一体、どんな想いが飛来しているのか・・・・
 古より異形と呼ばれる、燃え盛る炎の如き鮮やかな緑の眼差しは、木々の隙間に見える夜空をじっと見つめるばかりである。
 リーヤは、そんな彼のすぐ傍まで来ると、ほんの少し切なそうに笑って、彼の広い背中に背を合わせるようにして静かに立つのだった。
 高峰カルダタスの高き山々から吹き付ける冷たい風に、金色の月の光が舞い散っている。
 月影を宿すその風に、紺碧色の長い巻髪を遊ばせながら、リーヤもまた、瞬く星々を仰ぎ静かな口調で言うのだった。
「一つ聞いてもいいですか?」
「・・・・なんだ?」
 振り返らぬまま、彼は低くそう答えた。
「・・・あの時、貴方の胸にあった傷が消えたのは何故です?」
「・・・・・・・あれは、バースが俺にかけた呪いだ・・・例え火に焼かれてもその灰から蘇ることのできる・・・禁忌の不死の呪文だ・・・」
 その言葉に、さして驚くこともなく、リーヤは、振り返らずに言葉を続けた。
「そうですか・・・それを知っていて、あの人の爪を受けたのですね?
貴方は?」
「・・・・・・・・」
 押し黙った彼に遠慮することもなく、リーヤは、ジェスターと背中合わせに立ったままで尚も言葉を続ける。