神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 豪胆な彼とて、辛い筈だろう・・・・
 一度でも愛した者を、その手に掛けなければならなかったのだから・・・
 傍らで草をはむ二頭の騎馬が、小さく鼻を鳴らした。
 先程から、ずっと、そんな彼の姿がそこには見えない。
 リーヤは、どこか切ない表情のまま、しかし、何かを思ってその紺碧色の瞳を凛と輝かせると、ゆっくりとその場を立ち上がり、足元の草を踏みしめながら森の中へと足を進めたのである。
 天空に煌く金色の月の輝きが、生い茂る木々の影を眠る地面に映し出し、暗い森の中に淡く優しく降り注いでいる。
 凛と立つ花のようなリタ・メタリカの美しく勇ましい姫君は、長く艶やかな紺碧色の巻髪を胸元で揺らしながら、臆することなく、森の奥の方へと分け入って行った。
 カルダタス山脈から吹き付けてくる冷たい風が、森の木々を揺らし、色とりどりの星々が落ちていく黒絹の夜空に消えていった。
 紺碧色の艶やかな前髪の下で、彼女の瞳は、暗い森の中に、あの口の悪いアーシェの魔法剣士の姿を探していた。
 その綺麗な足に巻かれた痛々しい包帯が、小枝にかかって解けていくことも気にせずに、低い木を飛び越え、突き出す枝を押しのけて、ゆっくりと森の奥へと進んでいく。
 そして、晴れ渡る空を映したような彼女の紺碧色の二つの瞳は、生い茂る木々が僅か拓けた薄暗い空間に、アーシェの魔法剣士ジェスター・ディグの姿を見つけたのである。
 背に負っていた金色の大剣を下ろし、その手に持ったまま、身動ぎもせずに、輝く金色の月と瞬く星を抱く黒絹の天空を仰ぐその後ろ姿。
 艶やかな長い紺碧の巻髪を、マントを外したなだらかなその肩で弾ませながら、リーヤは、何も言わずに、ゆっくりとジェスターの長身の背中に歩み寄って行った。