神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 厳(いかめ)しい表情をしたままのリーヤが、その深い傷を押さえるように、背中から強く彼を抱きすくめた。
 溢れ出す鮮血が、彼女のしなやかな手を深紅に染め上げていく。
 その意図に気が付いたのか、ジェスターは、見事な栗毛の下で、ちらりと、緑玉の視線をリーヤに向けると、何故か、不敵に笑んだのである。
「離せリーヤ、俺は大丈夫だ・・・・・・へディートを頼む、今から、イリーネに止めを刺す・・・・・・離れてろ」
「何を言うのです!この傷ではいくら貴方でも・・・・!!」
怒ったようにそう言ったリーヤの手に、どくんと波打つような奇妙な感覚が伝わった。
「!?」
 鮮血に塗(まみ)れた彼の左胸に、赤々と輝く炎の獅子の紋章がある事を、この時点で、まだ彼女は知らないでいた。
 一体、それが何を意味するものであるのかも・・・・・・。
 後ろから強く抱きしめる彼女の手をするりと解いたジェスターの胸の傷が、ゆっくりと、脈打つように閉じていく。
「大丈夫だって言ってんだろ」
「待ちなさい!ジェスター!!」
 強い口調で彼の名を呼ぶリーヤに振り向くことなく、ジェスターは、妖の剣アクトレイドスを握り直し、ゆっくりとした歩調でイリーネに向かって歩き出したのである。
 紅の血に染まる紫衣(しい)の長い裾を翻し、利き手に持った金色の刃を前で構えた時、鋭く細められたその燃え盛る炎のような緑玉の瞳に、凛と閃く閃光が走った。
「来るな・・・・!来ないで・・・・!!来ないで――――――っ!!
アラン!!アランデューク!!」