神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

そんな彼と、スターレットに向かって、長い牙を持つ黒い魔獣が、唸り声を上げて一斉に宙を舞い、黒い矢のようになって踊りかかってきたのだった。
「ジェスター、こっちは引き受ける、おぬしは奴を」
スターレットの冷静な声が、金色の大剣を前で構える魔法剣士ジェスターに言った。
「言われなくても」
 低い声でそう答えると、ジェスターの凛々しい唇が、不敵に微笑する。
刹那、スターレットの紅玉の瞳が鋭く発光し、その知的な唇が、呪文と呼ばれる人の言語にあらざる古の言葉を紡いだ。
「フェイ・ドルーガ(疾風到来)」
 異様な気配に支配された豪華な王宮の只中に、一筋、冷たい風が吹き抜ける。
 本来なら、補助呪文と呼ばれる言葉がこの主呪文の前に紡がれるはずなのだが、彼自身の持つ膨大な魔力の前ではそんなものは不必要。
 奇妙な高い音が王宮にこだまし響くと、スターレットの肢体に絡み付いていた蒼いオーラが虚空に渦を巻き、凄まじい暴風となって飛び掛ってきた魔物を一瞬にして飲み込んだ。
 魔物達が悲鳴にも似た恐ろしい咆哮を上げる。
 蒼い輝きを纏った風が、びゅんと鋭い音を立てると、魔物の四肢が見えざる刃を持った風に吹き飛ばされ、黒い炎を上げて灰となり、次々と巻き起こる旋風の只中へと消えていく。
 風を纏うリタ・メタリカの大魔法使いの魔力は、実はこんなものでは済まされない。
 その膨大な力で一つの都市をも壊滅させるというロータスの魔法使いにとって、こんな魔物など雑魚も同然だ・・・。
 そんな彼の傍らにいたジェスターの肢体に、ゆらりと、金色の剣から立ち昇った、幾筋もの黄金の光の触手がゆるやかに絡み付いていく。
 同時に、その足元から、轟音と共に吹き上がる紅蓮の炎。
 間髪入れずに床を蹴り、彼の手首がしなやかなに翻ると、金色の輝きと深紅の火炎を纏った大剣が閃光の帯を引き、魔物の口から尾までを一気に両断せしめた。
 黒い炎を上げて灰になる魔物の屍を飛び越えて、燃え盛る炎のような緑玉の両眼で、魔物達の向こう側にゆるやかに浮かび上がってくる人容(ひとがた)の輝きを、真っ向から睨み据える。