神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

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「貴女は、魔物であったのですか!?イリーネ!?」
 ざわめく森の中に、凛と立つ花のように美しく強いリタ・メタリカの姫君の鋭い叫びがこだましていった。
 びゅうんと鋭い音を立てて空を切り裂く黒き炎の刃が、容赦なく彼女の体を狙って飛び込んでくる。
「魔物になりました・・・・貴女様を殺すために!!」
「な!?」
 その言葉に驚愕しつつ、緋色のマントを翻し、リーヤは、宙を舞う殺気の黒い刃を、右へ左へしなやかに退くと、細身の剣を翻し、その綺麗な顔を憎悪で満たしたイリーネに向かって刃を振りかざしたのだった。
「なんという愚かなことを・・・・!」
 リーヤの手から放たれた空を二分する鋭利な閃光の弧を、黒き翼を広げて宙を舞うように避けると、イリーネは、虚空にその身を躍らせたまま、しなやかな指先をリーヤの左胸に向けたのだった。
 にわかに、ミシミシと音を立てて、美しかったはずのその腕が、三本の鋭い鍵爪を持つおぞましい魔物のそれへと急速に変化してく。
 本来なら、澄んだ茶色であった彼女の両眼が、禍々しい赤の光を持ってカッと鋭く輝いた。
「・・・・この世から、消えて無くなれ!!」
 空を切り裂いて豪速でリーヤに落下してくる黒い翼、鋭く発光する三つの鍵爪の切っ先が、一直線に彼女の心臓を狙って黒炎を上げる。
 紺碧色の両眼を大きく見開き、咄嗟に身を翻したリーヤの利き腕を、寸前の所で鋭利な爪が薙ぎ払った。