神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

「知っていました・・・・あの人のことは、貴女様より、私の方がよく知っている筈です・・・・リーヤティア様」
 そう言ってリタ・メタリカの姫を見つめ返した彼女の茶色の瞳が、不意に、鋭く歪められる。
 とたん、ざわめくように鋭敏な六感に触れた奇妙なその気配に、リーヤは、ハッとその肩を震わせた。
 そんな彼女の眼前で、イリーネの綺麗な顔が憎しみに満ち溢れ、みるみる憎悪の表情へと変貌していく。
「な、なんなのです・・・・!?」
 咄嗟に、リーヤの利き手が腰の剣にかかった。
「・・・・・あの人を、貴女様には渡しません・・・・・絶対に」
「何を言っているのです貴女は?私達は、そのような間柄では・・・・っ」
 そう言いかけたリーヤの眼前に、煌(きらめ)くような閃光が走った。
 不意に虚空から飛来した黒き炎の刃が、真っ向からリーヤの首を狙ってまかり来る。
 凛と立つ花のように強く勇ましいリタ・メタリカの姫君は、素早く腰の剣を抜き払い、緋色のマントを乱舞させて横に飛び退いた。
 そんな彼女を討ち損じた黒き炎の刃が、背後の木を幹から真っ二つに両断する。
「何なのです!?」
 轟音を立てて背後に倒れた木を横目に、鋭利に煌くリーヤの澄んだ紺碧色の両眼が、驚愕を含んでイリーネの顔を顧みた。
 そんな彼女に、憎しみの形相で鋭い眼差しを向けたイリーネが叫ぶように言う。
「死んでください・・・・そうすれば、あの人は私の元へ戻るはず!!
死ね――――――っ!!!」
 ゆらりと、イリーネの肢体から黒い炎が吹き上がる。
 その綺麗な額に浮かび上がってきた紫の炎の紋章が、カッ眩く発光した。
 とたん、彼女の背中から大きな黒い翼が虚空へと伸び上がり、茶色であったその瞳が、まるで、血に染められたように禍々しい赤へと変わったのである。
「魔物!?」
 リーヤは、驚愕して大きく瞳を見開くと、どこか戸惑ったような表情をしながらも、素早く前で剣を構えたのである。
 朝の日差しに揺れる森の中に、邪な黒い炎が立ち昇っていった。