神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

「それで、スターレットも北にいるのですか?」
「いや、あいつの気配は今、南にある。目的がこっちに移れば、すぐに来るさ」
 そんな事を言いながら、深き紫色の衣の長い裾を翻し、ジェスターは、ゆっくりと彼女に背中を向けて、扉の外へと足を進めた。
 秀麗な顔を怪訝そうに歪め、リーヤは、艶やかな紺碧色の髪を肩で弾ませながら、彼の背中を追うようにして部屋を出る。
「ゼラキエルは、今、南にいると?」
「・・・・ま、あいつが追ってるのは、何もゼラキエルだけじゃないからな」
「どういう意味です?」
「・・・・何でもねーよ」
「なんですかそれは?ジェスター、貴方、他に何か知っている事があるのですか?」
「知ってたってお前には教えてやらねーよ」
 まるで、からかうようにそんな事を口にすると、ジェスターは、廊下を歩きながら、凛々しい唇でなにやらニヤニヤと彼女の秀麗な顔を見たのだった。
 そんな彼の態度に、綺麗な彼女の眉が、再び怒ったように吊り上がる。
「その言いようはなんなのです!?好い加減、その無礼な口の利き方を直しなさい!」
「馬鹿か?言葉は通じりゃいいって何回言えばわかるんだよ?」
「馬鹿とはなんですか!?私はそれが無粋だと言っているのです!」
 ギロリと、リーヤの大きな瞳がジェスターの端正な顔を睨みつけた・・・
 その時である、息急きながら、ジプシーの踊り子でイリーネの妹であるへディートが、慌てふためいた様子で二人の前に駆け込んできたのだった。