神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 同時に、蒼いローブを翻し旋風をその身に纏いながら、スターレットはその場に真っ直ぐ立ち上がる。
 雅で秀麗なその顔を厳(いかめ)しく歪め、爛と煌(きらめ)く深紅の両眼が、相変わらず性悪(しょうあく)に笑う、ラレンシェイの顔をした古の魔物を睨み据えたのだった。
『そなたに・・・その女性(にょしょう)は渡さぬ、魔の者よ!』
『そんなにこの女が愛しいのなら、貴方も、我らとともに魔に立ち返ればよいのですわ。
所詮、ロータスの一族も元は魔性、その身の内では闇の性(さが)が疼いているのではないのですか?』
『魔物の戯言に付き合っている暇はない!フェイ・ドルーガ(疾風到来)!』
 薄い月明かりに照らし出される草原の最中に、一筋の冷たい風が吹き付ける。
 スターレットの肢体から、ゆらりと立ち昇った蒼きオーラが空に渦を巻き、眩い輝きを伴って爆風と成り果てた。
 その凄まじい風の渦は、容赦もなしにレイノーラに向かって解き放たれる。
 チッと舌打ちした彼女の肢体を、黒い炎の結界が包み込んだ。
 激しく渦を巻く蒼き暴風を、燃え上がる黒炎がかき消した時、不意に、レイノーラの邪な青玉の両眼が、揺れる黒い前髪の下で大きく見開かれたのである。  
 頭の奥に響いてくる憑(よりまし)たるあの女剣士の声に、邪悪に歪んだ美麗な顔が苦悶の表情に変貌する。

~ お前になど、その男は殺させない!殺すとしたら、それはこの私の剣だ!
  黙って私を解放しろ!!お前の一部になど、誰が成るか!!

『この・・・・!忌々しい女め!!く、うわぁぁぁ――――っ!』
 長い髪を振り乱し、息を荒げながら身を捩ったその姿に、蒼き風を纏うスターレットの深紅の両眼がにわかに鋭く細められた。