「お前には関係ない・・・・・・・・聞きたいことは、それだけか?イリーネ?」
「・・・・え?」
「それだけなら、話すことは何も無い・・・・もう行くぞ」
朱の衣の長い裾が、イリーネの眼前でゆるやかに翻る。
ブーツの底が地面の草を踏みしめる音と共に、傍らを、通り過ぎようとする彼の腕を、彼女は、咄嗟に掴んだ。
「待って・・・・!」
ふと、足を止めたジェスターが、揺るがぬ冷静さをその端正な顔に湛え、燃え盛る炎のような緑玉の瞳で、再び、悲しそうなイリーネの綺麗な顔を見る。
高峰カルダタスから吹き付けてくる、ひんやりとした夜の風が、彼女の艶やかな琥珀の髪を虚空へと浚って森の奥へと消えていった。
頼りない薄い月が照らし出す彼女の姿は、夜の闇に溶けてしまいそうなほど儚く切な気で、そして、女神のように美しい。
冷静を装う鮮やかな緑の眼差しの奥に、僅かに浮かび上がってくる、あの日感じたままの愛しさの欠片。
彼とて、全て、忘れた訳ではない・・・・。
彼女がくれた暖かなぬくもりも、幼かった心で精一杯、彼に注いでくれた深い愛情も・・・・
胸の奥で微かに疼く、確かな愛しさも・・・・
だが・・・・
此処で、彼女に触れたところで、彼の行くべき道が変わる訳ではない。
これから、なさねばならぬ重大な事柄が消え失せる訳でもない。
既に、彼女のとの道筋は分かれている。
心を残したところで、どうする事も出来ぬことを、彼自身が一番良く知っていた。
ジェスターは、自分の腕を掴むイリーネの細い手首を静かに掴むと、ゆっくりとその手を解くのだった。
「・・・・え?」
「それだけなら、話すことは何も無い・・・・もう行くぞ」
朱の衣の長い裾が、イリーネの眼前でゆるやかに翻る。
ブーツの底が地面の草を踏みしめる音と共に、傍らを、通り過ぎようとする彼の腕を、彼女は、咄嗟に掴んだ。
「待って・・・・!」
ふと、足を止めたジェスターが、揺るがぬ冷静さをその端正な顔に湛え、燃え盛る炎のような緑玉の瞳で、再び、悲しそうなイリーネの綺麗な顔を見る。
高峰カルダタスから吹き付けてくる、ひんやりとした夜の風が、彼女の艶やかな琥珀の髪を虚空へと浚って森の奥へと消えていった。
頼りない薄い月が照らし出す彼女の姿は、夜の闇に溶けてしまいそうなほど儚く切な気で、そして、女神のように美しい。
冷静を装う鮮やかな緑の眼差しの奥に、僅かに浮かび上がってくる、あの日感じたままの愛しさの欠片。
彼とて、全て、忘れた訳ではない・・・・。
彼女がくれた暖かなぬくもりも、幼かった心で精一杯、彼に注いでくれた深い愛情も・・・・
胸の奥で微かに疼く、確かな愛しさも・・・・
だが・・・・
此処で、彼女に触れたところで、彼の行くべき道が変わる訳ではない。
これから、なさねばならぬ重大な事柄が消え失せる訳でもない。
既に、彼女のとの道筋は分かれている。
心を残したところで、どうする事も出来ぬことを、彼自身が一番良く知っていた。
ジェスターは、自分の腕を掴むイリーネの細い手首を静かに掴むと、ゆっくりとその手を解くのだった。


