神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

ましてや彼女は、その高貴な出にも関わらず武術を得意とする奇特な姫だ、ウィルタールの言葉が、さほど的を外しているとも思えない。
 美しい姫ではあるが、彼女は存外気性が激しい。
 愉快そうに知的な唇をほころばせたまま、スターレットは、先程から、その強く鋭い眼差しでこちらを見つめているラレンシェイの茶色の眼差しを真っ直ぐに見つめすえた。
 彼の知的な唇が、彼女に向かって何かを言おうと、僅かに開いた時だった・・・・。
 突然、回廊の大きな窓の外で、風の精霊達が、泣き叫ぶようなけたたましい叫び声を上げたのである。
「!?」
 魔法を司る者にしか聞こえないその声に、スターレットと、そして、ウィルタールがハッと肩を揺らす。
 刹那。
 どおぉんという凄まじい爆発音が、強固で巨大な城全体を揺るがした。
 宮廷付きの魔法使いである二人が、鋭い視線で回廊の窓から外を見ると、城の中心部、丁度、王宮がある辺りから、夜の闇と同化するよう黒い炎が立ち昇っていたのである。
「スターレット様!!」
 ウィルタールが声を上げると同時に、ラレンシェイもまた、異変に剣を構え直し、窓の外に鋭い茶色の眼光を向ける。
「なんだ!?」
「この話の続きは、また後だ、ラレンシェイ・・・・
ウィルト、他の術者に召集をかけろ、あやつが現れたようだ」
 そう言うなり、雅なその顔を鋭く歪めて、スターレットの姿は、まるで空間に溶けるかのようにその場から一瞬にして消え失せた。
 それを確認したウィルタールが、まだあどけないその顔を強く引き締めて王宮の方へとその身を翻す。
「貴女も!もう諦めて城を出た方がいいですよ!!」
「おぬしに指図されるいわれはないな、見習魔法使い殿」
 しかし、走り出したウィルタールの隣には、いつのまにやらラレンシェイが並んで走り出している。
 彼は思わず、驚いたように大きなその青い瞳を見開いた。
「な!?何で着いてくるんです!?」
「掟を邪魔した魔物を、そのままになどしておけるか!」
「もう!何を言ってるのかなほんとに!?」
 けたたましい足音が、騒乱の気配を宿した長い回廊にこだまして行った。
 長い騒乱の一幕が、今、まさに上がろうとしていた。