冷たい風の只中で、リューインダイルの金色の瞳が、同朋を見送ったシルバの端正な横顔を、その足元から静かに仰ぎ見たのである。
 彼の持つ艶やかな長い黒髪が、吹き付ける風の合間にゆるやかに跳ね上がった。
 リューインダイルは、そんな彼に向かって、やけにゆっくりとした口調で言うのである。
『シルバ、そなた、随分と好かれているようだな?白銀の姫君に?』
 その言葉に、シルバは、唇の隅で困ったように小さく笑うのだった。
『そのようだな』
『そなたは・・・・あの姫君の父がどんな男であったか、知っているのか?』
『いや・・・・実は人間であったと、以前アノストラールが言っていたが・・・それ以外は・・・』
『・・・・・そなたと同じ、実直な眼差しをした強い男であった・・・あやつは』
『・・・・え?』
 怪訝そうに眉根を寄せて、深い地中に眠る紫水晶のようなシルバの隻眼が、ふと、リューインダイルを振り返る。
 吹き付ける風に、彼の艶やかな長い黒髪と、純白のマントがゆるやかに虚空へと翻った。
 リューインダイルの金色の両眼が、どこか愉快そうに細められる。
『そなたが知る訳もないがな・・・・・・・あやつは、400年前のあの戦の最中に命を落とした・・・・・・そなたは、決して二の舞を踏むでないぞ』
『・・・・・』
 僅かに細められたシルバの澄んだ紫水晶の右目が、澱みなく真っ直ぐに、リューインダイルの顔を見つめすえた。
 遥か遠い昔、強力な呪文と共にその命を散らした白銀の守護騎士の姿に思いを馳せて、リューインダイルは、静かに両眼を閉じたのである。

~ どちらにせよ、私の命はもうすぐ尽きる・・・・ディアネテルに伝えてくれ・・・・愛していると・・・

 そう言ってやけに穏やかに微笑んだ、あの白銀の守り手の最後の姿を、忘れられるはずもない。
 ゆっくりと開かれたリューインダイルの金色の眼差しが、静かに、背後に立っている美しき青珠の守り手レダに向いた。