神在(いず)る大陸の物語【月闇の戦記】<邂逅の書>

 ふと、リューインダイルの言ったあの言葉が脳裏を過ぎり、レダは、にわかに口惜しそうな表情をすると、どこか苦々しい声色で短く言葉を紡ぐのだった。
『貴方は・・・・・竜狩人(ドラグン・モルデ)だったの?』
『・・・・・・・ああ、まぁな』
 いつもの通り、実に冷静な声でそう答えたシルバと、その端正な顔を睨むように見るレダの合間に、言い知れぬ不穏な緊迫の糸が張り詰めたことを察知して、アノストラールが、どこか怪訝そうに小首を傾げた。
 そして、一度小さくため息をつくと、おもむろに白銀の衣の懐に片手を入れたのである。
『おぬしらの間に・・・・何があったのかは知らぬが・・・・
青珠の守り手よ、先にこれを返しておこう・・・これがないと、青珠の森はおろか、レイルすら命が危ういだろう』
 そう言ってゆっくりと差し出したアノストラールの掌に、ひどく穏やかで優しい輝きを放つ、さほど大きくはない青玉の球が静かに浮かび上がってきたのである。
 それはまさしく、魔物の手によって【魔王の種】と共に青珠の森から持ち出された、青珠に宿る全ての命を司る【息吹(アビ・リクォト)】と呼ばれる秘宝であった。
『【息吹(アビ・リクォト)】・・・・』
 先程まで、ひどく怖い顔をしていたレダの表情が、どこかほっとしたように緩んだ。
 吹き付ける風に、高く結われた藍に輝く艶やかな黒髪が、音もなく揺れている。
『あの魔物の手から、これを守ってくれたのね・・・・ありがとう』
 そう言って、小さく微笑んだ彼女の秀麗な顔に、天空から差込み始めた、金色の太陽の破片が零れ落ちた。
『礼には及ばん、飛んだ醜態を晒すことにはなったが・・・・
そなたも、あの魔物に命を奪われなくて良かったな?苦戦しただろう?』
 アノストラールの静かな声に、レダは、どこかうつむき加減になって、青く輝く【息吹】に、ゆっくりとしなやかな指先を伸ばしながら、答えて言うのだった。
『リューイに救われたの・・・・・・私はいつも、救われてばかりいる』
『仕方あるまい、そなたは、青珠の守り手となってまだ日が浅い。
 それに、白銀の守護騎士ほど戦慣れもしておらぬだろうしな』
 どこか可笑(おか)しそうな表情を湛えて、アノストラールは、その黒い瞳をちらりと、先程から鋭い表情であの少女を見つめているシルバに向けた。