『どうして?だって私は・・・・・・!』
『貴女様は、白銀の森の次期女王となられる大切なお方、シルバとてそんな貴女様を戦いには巻き込みたくはないはず・・・・あの者たちなら大事はありますまい、少し様子を見ておりましょう』
『・・・・・・・・・』
 諭すようなリューインダイルの言葉に、可愛らしい顔をどこか不満そうに歪め、桜色の唇を小さく尖らせると、サリオは、華奢な肩でため息をつきながらしぶしぶ頷いたのである。
 山脈から吹き降ろす風に、ゆらゆらと漂う嘆きの精霊と生い茂る緑の木々の合間から、彼女が、虹色の瞳を集落の方に向けた時、既に、先陣の二人の影は小川に架かる橋まで辿り着いていたのだった。

 鋭く細められたシルバの右目が、地面にかがむようにして橋の袂を覗き込むレダのしなやかな背中を見た。
 山脈から吹き降ろす冷たい風が、広い肩に羽織られた純白のマントを虚空に棚引かせている。
 まるで白い闇のように集落全体を覆い尽くした嘆きの精霊達が、悲痛な叫びを上げ、ゆらゆらと宙を漂い深い森の中へと流れ込んでいく。
 青珠の森の秀麗な弓士レダは、綺麗な眉を潜めて、両腕を小川に浸すように倒れ伏している、まだ幼い少女の小さな体を抱き起こしたのだった。
「まだ息がある・・・・!」
 彼女が、どこか歓喜したように小さく声を上げた時、その後方から、紫の視線を幼い少女に向けたシルバの鋭敏な感覚に、何故か、奇妙な違和感が触れた。
 集落の全貌が見えなくなる程、嘆きの精霊に満たされているのに・・・生ける者がいる・・・?
 その生者の気配を、風の精霊は全く伝えてこなかった・・・・
 彼は、静かにその長身を落とし、言語を流暢なリタ・メタリカ語に換えると、レダの腕の中にいる少女に向かって冷静な口調で言うのだった。
「聞こえるか?此処で一体何かあった?」
 そんな彼の実に冷静な横顔を、レダは、鋭い視線で睨みつける。
「・・・瀕死の幼子に、何故そんな事を聞く必要がある!?」
 しかし、彼女の言葉には動じる様子もなく、ただ、制するように軽く片手を上げると、紫色の右目を鋭利に細めたまま、シルバは尚もぐったりしている少女に向かって言うのだった。