なんのことはない、単に力不足なだけなのだ。
 彼にはそれがもどかしく、情けないとまで思うほど。
 そんな自分にも、きっと、何か出来ることがあるはず・・・・
 他の魔法使い達は全て出払いだ・・・
 一人でリンデルに赴くのは不安だが、指名されたからには意を決して行くのが、見習とはいえ、宮廷付きの魔法使いたる者の使命。
 リンデルの街には、地方巡査官の兵も居るはずだ。
 大きな扉を蹴破るように開けると、ウィルタールは、その部屋の中央に立つ、人の背丈ほどもある水晶の柱に両手を差し伸ばしたのだった。
 シァル・ユリジアン大陸の各所に、点々と存在すると言われるこの【切望の石(ウィシュ・ド・メイル)】は、術者の赴くままにその身体を行きたい場所へと誘う力を持つという。
 一体、誰が何の目的で此処に設置したのかは、今でも定かではないが、この離宮やスターリン城が築城される以前から、この地にあったものであると、以前、彼の師であるスターレットは言っていた。
『我は切望す!この王都リタ・メタリカの北方、人々が息づく地リンデルへ、わが身を誘え!』
人にあらざる古の言語を用い、ウィルタールがそう叫ぶと、【切望の石(ウィシュ・ド・メイル)】と呼ばれる水晶の柱が、にわかに眩い銀色に輝きを放ったのである。
 音も立てずに足元から吹き上がる閃光が、触手のような光の手を伸ばし、まだ年若い見習魔法使いの肢体に急速に絡み付いていった。
 彼を取り囲んだその輝きは、やがて大きく宙に伸び上がると、一瞬にしてウィルタールの体を飲み込み、その姿を空間の狭間へと取り込んだのである。