「「ただいま」」
私と樹里ちゃんの声が重なった。
龍之介は何も言わず、リビングへと入っていく。


「で?」
ソファーに座るなり、鋭い視線を向ける龍之介。

こんなに怒った彼を見たのは久しぶりかもしれない。
どちらかというと俺様で、仕事にも厳しい人だけれど、2人の時は優しくしてくれる。
私がよっぽど怒らせるようなことをしない限り、最近は睨まれることもない。

「だから、ごめんなさい」
私の隣に座る樹里ちゃんが苛立たしげに口にした。

「はあ?『だから』ってなんだよ?」
あー、あー、樹里ちゃんったら、火に油を注いでる。

「もうやめましょうよ。龍之介が怒る気持ちもわかるけれど、樹里ちゃんも謝っているんだし」
樹里ちゃんの性格は親であるあなたが一番よく知っているはずじゃない。
ウンウンと頷いて、樹里ちゃんもうるんだ視線を送る。

「あのなあ未来、お前勘違いしてないか?」.
「え?」
「俺は、未来と樹里に怒っているんだ」
えええ?
「何で、私が怒られるのよ」
勢いで言い返してしまった。

はあー。
深い溜息が聞こえてきた。

「じゃあ聞くけれど、ちゃんと連絡はとっていたんだよな?」
真っ直ぐに私の方を見る龍之介。

「それは・・・」
「どうなんだ?」
詰め寄られれば、嘘はつけない。
「実は、なかなか電話も通じなくて・・・」
でも、心配をかけるだけだと思って言い出せなかった。

「未来」
「はい」
「俺は何度も大丈夫なのかって聞いたよな」
「うん」
「お前は大丈夫って答えたな?」
「はい」
だんだん目の前の景色がゆがんできた。
このままでは泣きそう、そう思って奥歯を噛みしめた。