「龍之介に恋愛感情がないってこと?」
お母様も不思議そう。
「いえ、好きです。でも、結婚はしません。龍之介さんが結婚なさるなら、身を引く覚悟はできています」

ああ、言ってしまった。
これで私の初めての恋も終わるんだ。
好きになったときから、龍之介には婚約者がいた。
いつか終わる恋と分かっていた。
私自身も母の苦労を見てきたせいで、結婚願望がない。
ないどころか、絶対に結婚はしたくないと思い続けてきた。
だから、これでいいんだ。


「あの、私はこれで失礼します」
鞄を手に部屋を飛び出した。
「待てよ」
龍之介の鋭い声。

でも、振り返らない。

後ろから、樹里ちゃんの「パパ、行かないで」って声が聞こえた。