ーー分かってるけど。
中学二年生、樋口有希。
只今、全力疾走中。これが憧れの先輩追っかけてるとか少女漫画的な夢があればいいんだけど現実はそうはいかない、むしろツラい。
ーーいや、ほんとに分かってるけど。
それでも歩かない。止まらない。早歩きでも七分はかかる通学路を全力疾走で三分とか、
無理って分かってんだけど。
ーーちょっとまってJRー!
息が苦しい。少しでも酸素を得ようとヒゥ、ヒゥとあえぎながら走る。人目なんて気にしないしどうでもいい。だって駅で一人?この寒い中?誰もいない駅で、小一時間も?それだけは嫌でしょ!
背中でリュックサックがガサガサいってる。
お弁当箱は無事だろうか。期待しない方がいいな。プリントはぐちゃぐちゃになってないだろうか。テストだけぐちゃぐちゃになってて欲しい。解読不能なレベルまで、それは無理か。あと一分。いけるか......?もしかして、ギリ乗れるかも?
とかいらないことばかり考えてる間に、踏切が鳴り響いた。あぁー、行っちゃったぁー。街頭がパッ、と灯った。それで空が暗いと気付く。どうでもいいけど寒い。
一人しかいない駅の中で、ぼんやりと空を見上げた。