人魚の眠る街

ほとんど席が埋まった頃、チャイムが鳴った。

「これより、最初のホームルームを始めます。まず…」

担任が軽く自己紹介を済ませ、生徒の点呼に移った。

窓の外によく見える桜を見ながら自分の名前が呼ばれるのを待った。特に大きい訳でもない声量で返事をして、桜が風が吹く度に散る様子をまた眺め始めた。

「━藤さん 、 加藤さん?」

後ろの席の人は加藤というようだ。
先生が何度も名前を呼ぶので振り返ってみると、そこはまだ空席だった。

すると勢いよくドアが開かれ、ショートカットの女の子が駆け込んできた。

「ごめ…ん、なさい、クラスどこか…、わかんな、くて、」

その女の子は肩で息をしながら、担任に必死に謝っていた。

「あぁ、そうか。」

担任は軽くながし、その女の子を席に座るようにと促した。