動揺しているエルハムとはうってかわって、ミツキは落ち着いて話しをしている。
 彼は使用人との事を見られてもいいと思っているだろうか。

 もうそんな仲なのだと、エルハムは思ってしまい、咄嗟に彼に背を向けた。


 「じゃあ、用事はそれだけだから……。」


 そう言ってミツキから離れてしまおう。今の自分は醜い顔をしているはずだから。

 けれど、それをミツキは許してはくれなかった。ミツキは逃げようとするエルハムの手首を掴みエルハムの動きを止めてしまったのだ。

 この間は、エルハムが触れようとしたら避けたミツキだったが、今は自分から触れてきたのだ。
 エルハムは驚き、その場で体を固まらせた。


 「…………ミツキ?」
 「今、お時間よろしいですか?姫様に少し用事があります。」
 「…………それは今じゃないとダメなの?」
 「今がいい、です。」
 「………わかったわ。」


 エルハムがゆっくりと振り向くと、ミツキの少し強く握っていた手が離れた。
 恐る恐る彼の事を見上げると、困った顔でエルハムを見つめるミツキの顔があった。

 最近、彼にこんな顔しかさせてないような気がして、エルハムは悲しくなってしまう。
 
 
 「狭い部屋ですが、どうぞ。」
 「………え。入ってもいいの?」
 「姫様さえよければ。」
 「…………でも、さっきまで彼女が………。」
 「え?」
 

 驚きのあまり、口が滑ってしまい、エルハムは自分の言葉にハッとしたが後の祭りだった。
 ミツキは笑いながら、「なるほど……。」と小さく呟きた後、今度は優しくエルハムの手を取った。


 「先ほどは彼女が届け物をしてくれただけです。………姫様、どうぞこちらへ。」


 姫であるエルハムは、エスコートには慣れているはずだった。
 けれど、エルハムは今までで1番ドキドキするエスコートに感じていた。


 ミツキといると、気持ちが落ち着かないな。そんな風に思いながら、エルハムは彼の部屋に足を踏み入れた。