第20話「嫉妬とエスコート」
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セリムは見たくない事を見てしまった、とそこに自分が居たことを後悔していた。
自分が悪いわけではない。
けれども、見なければ不快な思いをしなくても済んだのだと思うと、そこに居た事を後悔するしかなかった。
セリムが見たのは、エルハムがミツキに抱き抱えられて自室に入っていく所だった。
エルハムは恥ずかしそうにしながらも微笑んでおり、ミツキもいつもより表情が柔和だった。
そんな2人を見ている城の人たちや騎士団員達は「微笑ましい。」と言ったり「お似合いだ。」などと平和な事を話している。
けれど、セリムはその考えに全く賛同出来なかった。
エルハムは、セリムが1番敬愛している人だ。自分より年下の彼女をずっと見守っていたいと思うし、幸せになって欲しいと思っている。幼い頃から彼女の近くに居たのは自分だと思っていたし、将来的にもずっとそうだと思っていた。
けれど、突然現れたミツキという謎の男。
その男が、セリムの居場所を奪い、エルハムの信頼さえも取って行ったのだ。今となっては、エルハムはいつも「ミツキはどこ?」と、言って共に居るようになっている。
エルハムが彼を選んだのであれば、それは仕方がない事だともセリムは悔しい思いを抱きながらも思っていた。
けれど、ミツキは全く素性がわからない男なのだ。
「あいつはもしかしたら、どこかの国からのスパイかもしれないというのに………。」
ミツキは、シトロン国に来た頃の幼い時から、剣術に長けていたのだ。騎士団員として戦術を磨いていたセリムと同じぐらいか、もしかしたらそれ以上に強かった。
それに、構え方も同じように見えたが、力の抜き方や攻撃のパターンが違っているのにも違和感を感じていた。
力や剣術を隠そうとしないで、騎士団に教えてしまっているのにはセリムも驚いた。
けれど、全体的に見て、怪しいことにはわかりがなかった。
「これ以上、エルハム様との距離が近くなる前に何とかしなければ………。」
そう呟きながら、セリムは静かな廊下を歩き始めた。