そんな時だった。彼女が体を動かした。視線をエルハムの顔に送ると、少し頬を染めたエルハムが目を覚ましていた。
冷静を装いながら、ミツキは彼女に声を掛けた。
「姫様。お目覚めですか。」
「………うん。」
「裁縫中に寝てしまうなんて、針が刺さっては大変です。お気をつけください。」
「そうね。……ごめんなさい。」
「それと、ニホンゴを教えるお約束をしていたので、探しました。」
「私も探したわ。でも見つからなかったから、諦めてしまったの。」
「すみません。」と言いながらも、彼女が自分を探してくれていた事に安堵した。約束を忘れて、セリムへの刺繍に夢中になっていたのかと思うと、さすがに表情に出てしまっていたかもしれない。
しかし、エルハムはミツキを見つめた後、何か言いたげに口を開いたけれど、その言葉を飲み込んだ。
エルハムの異変に気づいたミツキは、飲み込んだ言葉を聞こうと優しくエルハムに問い掛けた。
「姫様、どうしました?………体調が悪いのですか?」
「違うわ。何でもないの。」
「では、何故こちらを見ないのですか?」
「…………約束を忘れてるからよ。」
「………ニホンゴの勉強は忘れてなど……。」
「2人きりになったら、丁寧な言葉を使わない約束でしょう?」
彼女が言いたかった事は本当にこの事だろうか。疑問に思いながらも、彼女が駄々をこねてるのがわかり、ミツキは嬉しくなり笑ってしまう。
あぁ、彼女はこんなにも自分を求めてくれているではないか。
ミツキはそう思い安心した。
そのはずだった。